音へのこだわり
サックス侍の音づくり / SOUND & PHILOSOPHYうまい音より、心に届く音を。速いフレーズも、複雑な和音も使いません。サックス侍がひたすら磨いているのは、たった一音の「音色」です。その一音が、目の前の誰かの心に触れることだけを考えて吹いています。
サックス侍の演奏を初めて聴いた方から、よくこう言われます。「なんだか、涙が出てきました」。技術に驚いたのではなく、心が動いたという感想です。それは、私がずっと目指してきた反応でもあります。
このページでは、私がどんな音を目指し、何を考えながら吹いているのかを、少しだけお話しさせてください。
難しいフレーズは、吹きませんNOT ABOUT TECHNIQUE
サックスという楽器は、速いフレーズや華やかな技巧で聴かせることもできます。けれど私は、そこをほとんど意識していません。
難しいフレーズは、確かに「すごい」と思っていただけます。でも、通りすがりの方が足を止め、目を閉じ、涙を流すのは、たいていとてもシンプルな一音のときです。技術の見せどころと、心が動くところは、別のものでした。
私は独学でサックスを始めたので、いまでも楽譜は読めませんし、音楽理論にも詳しくありません。回り道のようですが、そのぶん「耳と心にいいと感じるか」だけを頼りに音を作ってきました。結果として、それが私の音になったのだと思っています。
「感動しました」と言われたい。技術的な完成度は、目的ではなく手段です。音を届けたい相手は、審査員ではなく、その場に立ち止まってくださった一人ひとりですから。
いちばんのこだわりは、音色TONE IS EVERYTHING
では何にこだわっているのかというと、音色の一点です。
同じ音符でも、吹き方ひとつで音はまったく別のものになります。細く澄んだ音、厚くあたたかい音、消え入るように終わる音。その微妙な違いこそが、聴く人の感情に直接触れる部分だと考えています。
だから練習の時間の多くは、曲を覚えることではなく一音をどう鳴らすかに使っています。マウスピースやリードの選び方、息の入れ方、音の終わらせ方。地味な作業の積み重ねですが、ここだけは妥協したくないところです。

一音をどう鳴らすか。ここに、いちばん時間をかけています
歌うように吹くSINGING, NOT PLAYING
私が演奏中に思い浮かべているのは、いつも「歌」です。サックスを楽器としてではなく、自分の声として使う感覚に近いかもしれません。
歌詞のあるJ-POPを、あえて歌詞のない音で演奏する。すると不思議なことに、聴いてくださる方はそこへご自分の言葉や記憶を重ねてくださいます。同じ演奏を聴いても、思い浮かべている情景は一人ひとり違う。それが、器楽演奏のいちばん豊かなところだと思っています。
息づかい、間の取り方、フレーズの終わり方。人が歌うときに自然に生まれるものを、そのままサックスに移し替えることを心がけています。
悲しみに、寄り添える音TO STAND BESIDE YOU
自分の音の役割をはっきり自覚したのは、活動の初期、大曽根駅で演奏していたある日のことでした。ひとりの女性が、涙を流しながら聴いてくださっていて、こうおっしゃったのです。
余命を宣告されたんです大曽根駅で、ある日いただいた言葉
私は、何も言えませんでした。けれど深く考えるうちに気づいたのです。「自分の音は、人の悲しみに寄り添える音なんだ」と。
元気に励ます音ではないけれど、悲しみにそっと寄り添い、癒す音。音楽療法の考え方を土台に、さまざまな悩みや不安を抱えている方のとなりに静かに座るような演奏を届けたい——それが、いまも変わらない私の音づくりの中心にあります。
選ぶ曲は、優しいバラードREPERTOIRE
演奏する曲は、世代を越えて誰もが口ずさめるJ-POPの名バラードが中心です。派手さで驚かせる選曲ではありません。目の前の方の心をゆるめ、深呼吸をひとつしていただけるような曲を選んでいます。
一音一音に、心を込めてONE NOTE AT A TIME
私のポリシーは、とても単純です。一曲一曲、一音一音を、心を込めて吹くこと。それだけです。
2020年7月に街角に立ってから、演奏の回数は通算1,300回を超えました。同じ曲を何百回と演奏していますが、聴いてくださる方にとってはその日が初めての一回です。「慣れ」で吹いた音は、驚くほど正直に伝わってしまいます。
今日この場所で、いま目の前にいるこの方に向けて吹く。その一回性を大切にすることが、結局はいちばんいい音につながると信じています。
街角での演奏には、ごまかしがききません。よければ立ち止まり、そうでなければ立ち去る。とても正確な評価が、その場で返ってきます。
何人が足を止めてくださったか、どの一音で表情が変わったか。それを毎回受け取りながら、私は音を作り直してきました。ホールでも商業施設でも、いま届けている音の原点は、この街角にあります。
聴いてみてくださいMOVIE
言葉でお伝えするより、実際の音を聴いていただくのがいちばん早いかもしれません。
実際の演奏のようす
目指しているのは、明日の糧になる演奏FOR YOUR TOMORROW
演奏が終わって、拍手をいただいて、それで終わり。それでは、少しもったいないと思っています。
私が本当に願っているのは、聴いてくださった方が次の日を少しだけ生きやすくなることです。仕事に行くのが憂うつな朝に、ふとあの音を思い出す。つらい治療の日に、あの旋律が背中を押してくれる。そんなふうに、演奏が終わったあとの時間にまで届く音でありたいのです。
実際に、こうした声を日々たくさんいただきます。この言葉たちが、活動を続けるいちばん大きな原動力になっています。
音で、心の病みを斬る。技術で驚かせるのではなく、心に触れること。
それだけを考えて、今日も街角に立っています。